高ストレス者の判定基準|厚労省標準モデルと選定数の目安
ストレスチェックで「高ストレス者」と判定される人は、労働者全体の概ね10〜15%程度になるよう判定基準を設定するのが標準的な設計です。厚生労働省マニュアルが示す標準判定モデルは、職業性ストレス簡易調査票の3領域スコアを用いた2段階判定方式です。
標準的な判定モデル
- 判定方法1(A):心身のストレス反応(領域B)の合計点が一定の基準値以上
- 判定方法2(B):心身のストレス反応がやや高く、かつ仕事のストレス要因(領域A)と周囲のサポート(領域C)の合計点が高い
判定方法1または2のいずれかに該当した労働者を高ストレス者と判定します。具体的な基準値は事業場ごとに衛生委員会で決定可能ですが、厚労省が公開する標準値(例:素点換算表に基づく基準)を採用するケースが多数を占めます。
選定数の目安と判定基準の調整
厚労省は「概ね10%程度を高ストレス者として選定するよう判定基準を設定する」ことを推奨しています。実務上、判定結果が極端に少ない(5%未満)または多い(20%超)場合、基準値を翌年以降に調整することも認められています。
| 選定割合 | 解釈と対応 |
|---|---|
| 5%未満 | 基準が厳しすぎる可能性。集団分析でストレス傾向が出ているなら基準緩和を検討 |
| 10〜15% | 標準的な範囲。原則として継続運用 |
| 20%超 | 組織全体のストレス水準が高い可能性。集団分析・職場改善を急ぐ |
高ストレス者通知の標準形式
高ストレス者と判定された本人には、結果通知に「医師による面接指導の対象であること」「面接指導を希望する場合の申し出方法」を明記して通知します。多くの企業では、ストレスチェック結果と一緒に面接指導申出書を同送するか、Webシステム上から申し出可能な導線を整えています。
本人の申し出から面接指導実施までの実務フロー
面接指導は本人の申し出により実施するのが原則です。会社側から強制することはできません。標準的な実務フローは以下のとおりです。
標準フロー(5ステップ)
- 結果通知:ストレスチェック結果と面接指導申出案内を本人へ通知
- 申し出受付:本人から会社へ面接指導申出書(紙または電子フォーム)を提出。申出期限は通知から1ヶ月以内が一般的
- 産業医への依頼:会社が産業医へ面接指導を依頼。日程調整を行う
- 面接指導の実施:産業医が30〜60分程度の面接指導を実施(オンライン可)
- 意見書の交付と事後措置:産業医から会社へ就業上の措置に関する意見書が交付される。会社はその意見を踏まえて事後措置を検討・実施
申し出の心理的ハードルを下げる工夫
「申し出ること自体が会社にバレる」「評価に影響する」と本人が不安を持つと、申し出率は大きく下がります。以下の工夫を入れることで、申し出率を高められます。
- 申し出窓口を人事ではなく産業医・保健師の直接窓口にする(メール・専用フォーム)
- 面接指導の目的が「評価ではなく健康管理」であることを事前説明会・社内通知で繰り返し伝える
- 面接指導の守秘義務を文書で明示する
- 面接指導の所要時間(30〜60分)を業務時間として認める
- オンライン面談を選択肢として提示する
申し出が出ない場合の対応
本人が申し出を行わない場合、会社から強制することはできませんが、「ぜひご活用ください」という再案内通知を1〜2回送ることは可能です。何度も執拗に促すことは、本人へのプレッシャーや個人特定リスクを生むため避けます。
面接指導で産業医が確認するポイントと面談シナリオ
高ストレス者面接指導は、医師(産業医)による医学的視点での面談です。診断や治療を行うわけではなく、就業上の措置を検討するための情報収集が主目的です。なお最終的な診断や治療方針は主治医の判断に委ねられます。
面接指導で必ず確認する項目
| 確認カテゴリ | 具体的な確認項目 |
|---|---|
| 勤務状況 | 労働時間、業務量、業務内容、責任範囲、職場の人間関係 |
| 心身の症状 | 睡眠、食欲、頭痛、抑うつ気分、不安、集中力、希死念慮の有無 |
| ストレス要因 | 業務、対人関係、家庭、経済、健康、その他 |
| 受診状況 | 主治医の有無、現在の治療内容、服薬状況 |
| 本人の希望 | 就業上の配慮、業務量調整、配置転換、相談継続の希望 |
標準的な面談シナリオ(60分構成)
- 導入(5分):面接指導の目的、守秘義務、面談時間の説明
- 現状の確認(15分):勤務状況、業務内容、ストレス要因の聞き取り
- 心身の症状確認(15分):医学的観点からの状態評価
- 本人の希望と目標確認(10分):継続勤務意向、希望する配慮内容
- 就業上の措置の検討(10分):本人と一緒に措置案を相談
- クロージング(5分):意見書の内容と会社への共有範囲の確認、次回フォロー予定の決定
面接指導の判断軸:3区分の意見書
面接指導の結果、産業医は会社に対して以下の3区分のいずれかに該当する意見書を作成します。
- 通常勤務可:就業上の措置不要、または定期フォローのみ
- 就業制限要:労働時間短縮・深夜業務制限・出張制限・業務量軽減・配置転換などの具体的措置を要する
- 要休業:主治医受診を勧奨し、休業の検討を要する
意見書には具体的な措置内容と必要な期間を明記し、会社が対応しやすい形式にすることが実務上重要です。
緊急対応が必要な場合
面接指導中に希死念慮や急性のメンタル症状が確認された場合、産業医は本人の安全確保を最優先します。本人の同意を得つつ、当日中の精神科受診手配、家族への連絡、単独帰宅の回避などを進めます。詳しい初動対応はメンタル不調社員への対応もあわせてご覧ください。
事後措置の具体例|就業制限・配置転換・労働時間短縮
産業医意見書を踏まえて、会社は事後措置を実施します。措置内容は意見書に基づき、本人と相談しながら確定します。
典型的な事後措置パターン
| 措置パターン | 具体例 | 期間目安 |
|---|---|---|
| 労働時間短縮 | 残業禁止、深夜業務禁止、所定労働時間の短縮 | 3ヶ月〜6ヶ月 |
| 業務量調整 | 担当案件数の削減、業務難易度の段階的調整 | 3ヶ月程度 |
| 業務内容変更 | クライアント対応からバックオフィスへの一時異動など | 6ヶ月〜 |
| 配置転換 | 部署変更、上司変更、勤務地変更 | 恒久的または6ヶ月〜 |
| 勤務形態調整 | リモートワーク許可、フレックス活用、出社頻度調整 | 3ヶ月〜 |
| 休業 | 主治医診断書に基づく休職開始 | 個別判断 |
事後措置を実施する際のチェックリスト
- 本人の同意を得て措置内容を決定したか
- 措置内容を上司・同僚にどこまで共有するか、本人と合意しているか
- 措置の期間と終了条件が明確か
- 給与・賞与・人事評価への影響の有無を本人に説明したか
- 定期フォロー面談の予定が組まれているか
- 措置内容と実施記録を文書化しているか
事後措置を怠った場合のリスク
産業医意見書を受領しながら適切な事後措置を取らず、その後にメンタル疾患の発症や労災事案に至った場合、会社の安全配慮義務違反として損害賠償請求のリスクが極めて高まります。意見書の内容を文書化し、措置の検討経緯と実施記録を残すことが、組織防衛の観点でも欠かせません。
個人結果の管理と本人同意の原則
高ストレス者の個人結果の取り扱いは、本人同意が大原則です。これがストレスチェック制度の最重要ポイントの1つで、誤った運用は労働安全衛生法違反となります。
個人結果の取り扱いルール
- 個人別のストレスチェック結果は本人同意なく事業者に提供できない
- 本人同意がある場合のみ、事業者へ結果提供可能
- 面接指導を申し出た時点で「面接指導の結果と意見書については事業者に提供される」ことに同意したとみなされる
- 結果データは5年間の保存義務あり、事業所内の鍵付き保管庫または暗号化された電子記録で保存
誰が個人結果にアクセスできるか
| 役割 | アクセス可否 |
|---|---|
| 実施者(産業医・保健師など) | ○ 業務上必要な範囲で可 |
| 実施事務従事者(人事権なしの担当者) | ○ 配布・回収・データ入力など事務作業で可 |
| 人事評価権を持つ管理職・人事担当者 | × 不可 |
| 本人の上司 | × 本人同意なく不可 |
違反時のリスク
本人同意なく個人結果を閲覧・流用した場合、労働安全衛生法第104条違反として、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となります。さらに本人からの損害賠償請求のリスクも生じます。
不利益取扱いの禁止
面接指導の申し出をしたこと、または面接指導の結果を理由に、解雇・降格・減給・配置転換などの不利益取扱いをすることは禁止されています。事後措置として実施する就業制限や配置転換は、あくまで本人の健康保護を目的とした医学的措置であり、人事評価上の不利益と区別して取り扱う必要があります。
集団分析の活用と「申し出が出ない」課題の対策
高ストレス者対応の最大の課題は「対象者が申し出を行わないため、面接指導が実施できない」という現実です。実際、高ストレス者と判定されても申し出る人は2〜3割程度にとどまるのが業界平均で、せっかくのストレスチェックが活かしきれていない企業が多数あります。
申し出率を高める3つのアプローチ
- 1. 申し出窓口の心理的ハードルを下げる:人事ではなく産業医直通の窓口にする、Webフォームで匿名相談から開始可能にする
- 2. 制度説明の事前周知を徹底:実施前に全社員説明会を開催し、面接指導の目的と守秘義務を伝える
- 3. オンライン面接指導を選択肢に入れる:対面の心理的負担を下げる。リモートワーク中心の組織では特に効果が高い
個別面接指導が出ない場合の集団的アプローチ
個別の面接指導申し出が低調でも、集団分析を活用した職場改善で組織のストレス水準を下げることは可能です。集団分析は10人以上の単位で実施し、部署別・職位別のストレス傾向を可視化します。
集団分析から職場改善へのつなぎ方
- 集団分析結果を衛生委員会で報告
- ストレススコアが高い部署を特定
- 該当部署のマネージャー・人事でヒアリング
- 改善計画の策定(業務量調整、コミュニケーション改善、上司のマネジメント研修など)
- 翌年のストレスチェック結果で効果検証
ベンチャーで効果が出やすい組織改善施策
- 1on1の質改善(マネージャー向けコーチング研修)
- 業務量の可視化と業務量調整プロセスの整備
- 裁量権・決定権の委譲(マイクロマネジメント抑制)
- 有給休暇取得率の数値目標化
- 長時間労働者面接指導との連動運用
制度設計の見直しタイミング
毎年のストレスチェック実施後、衛生委員会で運用の振り返りと改善議論を行うことを推奨します。判定基準、申し出フロー、結果通知のタイミング、集団分析の単位など、運用の細部を見直すことで、年々制度の効果が高まります。ストレスチェック制度全体の概要はストレスチェック制度とはもあわせてご覧ください。
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