読了 約11分 日本医師会認定産業医監修

産業医を選任しないとどうなる?罰則・未選任のリスクと是正手順

この記事のポイント(30秒で読める要約)

常時50人以上の事業場で産業医を選任しないと、労働安全衛生法第13条違反として同法第120条の50万円以下の罰金対象となり、両罰規定で行為者個人も処罰され得ます。実害は罰金より重く、労基署の是正勧告・送検、労災時の安全配慮義務違反による民事賠償、IPO審査での重大指摘に及びます。選任は50人到達から14日以内に労基署へ報告が必要です。

この記事の目次

  1. 産業医を選任しないと科される罰則(安衛法第120条)
  2. 産業医の選任義務はいつ発生するか|「常時50人」の基準
  3. 未選任で実際に起こる4つの実害
  4. 産業医以外にもある未対応の罰則一覧
  5. 14日以内に選任を完了させる手順
  6. すでに未選任の状態からのリカバリ方法

産業医を選任しないと科される罰則(安衛法第120条)

「常時50人以上の労働者を使用しているのに産業医を選任していない」——この状態は明確な法令違反です。労働安全衛生法は第13条第1項で、一定規模以上の事業場に対して産業医の選任を義務付けており、これに違反した場合は同法第120条により50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。「知らなかった」「あとで対応するつもりだった」は通用しません。

誤解されやすいのですが、罰金の対象は会社(法人)だけではありません。労働安全衛生法第122条の両罰規定により、違反行為を行った代表者や人事担当者などの個人と、法人の双方が罰せられる構造になっています。つまり「会社が払えば済む」話ではなく、実務の責任者個人にもリスクが及び得る点が、他の軽微な事務手続きとは決定的に異なります。

違反内容根拠条文罰則
産業医の未選任安衛法第13条/第120条50万円以下の罰金
選任後14日以内の労基署への未報告安衛則第13条是正勧告・指導の対象
両罰規定(行為者個人+法人)安衛法第122条行為者・法人の双方を処罰

50万円という金額そのものは、企業経営に致命傷を与える額ではないかもしれません。しかし本当に怖いのは罰金の額ではなく、後述する「労基署の是正勧告から送検に至る流れ」「労災・安全配慮義務違反による民事賠償」「IPO審査での重大指摘」といった二次的・三次的な実害です。罰則はあくまで入口に過ぎないと理解しておく必要があります。

産業医の選任義務はいつ発生するか|「常時50人」の基準

産業医の選任義務は、「常時50人以上の労働者を使用する事業場」になった時点で発生します。ここでつまずきやすいポイントが3つあります。

ポイント1:「常時50人」には正社員以外も含む

「常時使用する労働者」には、正社員だけでなく、週1日以上または月8時間以上勤務するパート・アルバイト・契約社員も含まれます。さらに派遣社員は、派遣先の事業場で実際に指揮命令下にある人数として算入されます。「正社員は40人だから大丈夫」と考えていても、パート・アルバイトを足すと50人を超えているケースは非常に多く、ここが最初の落とし穴です。

ポイント2:「会社全体」ではなく「事業場ごと」に判定する

50人のカウントは会社全体の合計ではなく、本社・支店・工場など事業場単位で行います。本社60人・支店30人の合計90人の会社の場合、選任義務が発生するのは本社(60人)のみで、支店(30人)単独では義務は発生しません。複数拠点を持つ企業は、拠点ごとの人数把握が必須です。

ポイント3:選任・届出の期限は「14日以内」

50人に達したら、その日から14日以内に産業医を選任し、所轄の労働基準監督署へ「総括安全衛生管理者・産業医・衛生管理者選任報告」を提出しなければなりません。14日という期間は決して長くありません。「50人を超えてから産業医を探し始める」のでは間に合わないことが多く、40〜45人の段階で準備を始めるのが安全です。「常時50人」の具体的な数え方は別記事で詳しく解説しています。

未選任で実際に起こる4つの実害

罰金50万円という条文上の数字以上に、実務担当者が直視すべきなのは次の4つの実害です。いずれも企業の信用・資金・将来の選択肢に直接ダメージを与えます。

実害1:労働基準監督署の是正勧告 → 送検事例

労基署の調査(臨検監督)で産業医の未選任が発覚すると、まず是正勧告書が交付され、期限内の是正と報告を求められます。多くはここで是正すれば刑事手続きには至りませんが、勧告を無視・放置した場合や、悪質と判断された場合は書類送検されることがあります。安全衛生法違反による送検事例は実在し、企業名が公表されれば採用・取引にも影響します。「勧告が来てから動けばいい」という発想自体がリスクです。

実害2:労災・安全配慮義務違反による民事賠償

これが金額面で最も重いリスクです。従業員が過重労働やメンタル不調で健康被害を負い、それが労災認定された場合、企業は労働契約法第5条の安全配慮義務違反を理由に民事上の損害賠償を請求される可能性があります。過労死・過労自殺の裁判では、賠償額が数千万円〜1億円規模に及ぶ例もあります。このとき「産業医を選任していなかった=健康管理体制を構築していなかった」事実は、企業側に著しく不利な事情として評価されます。罰金50万円とは桁違いの経済的リスクです。

実害3:IPO審査・M&Aの労務DDでの重大指摘

上場準備(IPO)やM&Aの過程で行われる労務デューデリジェンス(労務DD)では、産業医選任・衛生委員会・ストレスチェックなどの産業保健体制が過去2〜3年分にわたって精査されます。産業医が未選任だった期間があると、労務コンプライアンス上の重大な指摘事項となり、上場スケジュールの遅延や、最悪の場合は審査の停滞につながります。しかも過去の未選任期間を遡って「なかったこと」にはできません。詳しくはIPO準備で問われる産業医のポイントもあわせてご覧ください。

実害4:従業員の健康悪化と離職・レピュテーション低下

産業医がいなければ、長時間労働者やメンタル不調者の早期発見・面接指導の仕組みが機能しません。結果として健康悪化・休職・離職が増え、採用コストや生産性低下という形で静かに、しかし継続的に企業の体力を奪います。SNS時代には「健康管理がずさんな会社」という評判が採用力に直結します。

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産業医以外にもある未対応の罰則一覧

「50人の壁」で発生する義務は産業医の選任だけではありません。これらを同時に満たさなければ、産業医を選任しても法令対応としては不完全です。それぞれに罰則・行政指導が定められています。

義務根拠条文未対応のペナルティ
産業医の選任安衛法第13条50万円以下の罰金(第120条)
衛生管理者の選任安衛法第12条50万円以下の罰金(第120条)
衛生委員会の設置・毎月開催安衛法第18条/安衛則第23条50万円以下の罰金(第120条)
ストレスチェックの年1回実施安衛法第66条の10未報告は50万円以下の罰金(第120条)
定期健康診断結果報告書の提出安衛則第52条50万円以下の罰金(第120条)

衛生管理者・衛生委員会の未設置

常時50人以上の事業場では、衛生管理者免許を持つ者を1名以上選任し、毎月1回以上の衛生委員会を開催する義務があります。いずれも怠れば50万円以下の罰金の対象です。衛生委員会には産業医がメンバーとして参画するため、産業医選任とセットで体制を整えるのが効率的です。

ストレスチェックの未実施・未報告

常時50人以上の事業場には、年1回のストレスチェック実施と、労基署への結果報告(検査結果等報告書)が義務付けられています。報告を怠った場合は50万円以下の罰金の対象です。加えて、人事評価権を持つ者が本人同意なく個人結果を閲覧することは、守秘義務違反として刑事罰(6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)の対象となる点にも注意が必要です。

定期健康診断結果報告書の未提出

常時50人以上の事業場は、定期健康診断の結果を「定期健康診断結果報告書」として所轄労基署へ提出する義務があります(安衛則第52条)。所見の有無にかかわらず提出が必要で、未提出は50万円以下の罰金の対象です。

14日以内に選任を完了させる手順

「50人を超えた」と気付いた時点から、逆算して動くための標準手順です。14日というタイトな期限を守るには、産業医探しと並行して社内手続きを進めるのが鍵です。

  1. Day 1〜3:人数確認と方針決定
    常時労働者数(パート・アルバイト・派遣含む)を事業場ごとに正確に確認し、産業医導入のプランと予算を検討します。
  2. Day 4〜7:産業医探し・面談
    産業医紹介サービスや直接契約型サービスへ問い合わせ、候補医師と面談します。オンライン面談で完結するサービスならスピーディーです。
  3. Day 8〜12:契約・社内体制整備
    産業医と契約を締結し、並行して衛生管理者の選任、衛生委員会のメンバー選定を進めます。
  4. Day 13〜14:労基署への届出
    「産業医選任報告」「衛生管理者選任報告」を所轄労基署へ提出します。届出には産業医の医師免許証の写しと産業医資格を証明する書類の添付が必要です。

産業医として選任できるのは、日本医師会認定産業医や産業医科大学卒業者など、労働安全衛生法で定められた要件を満たす医師に限られます。要件を満たさない医師では選任が無効になるため、契約前に資格要件の確認が欠かせません。具体的なチェックリストは産業医選任14日以内の完全チェックリストにまとめています。

すでに未選任の状態からのリカバリ方法

「気付いたら数か月、未選任のまま放置していた」というケースも、実際には少なくありません。重要なのは、発覚を恐れて放置を続けるのではなく、一日でも早く是正に着手することです。是正に向けて自主的に動いている事実は、万一の労基署対応や民事リスクの場面でも、企業側の誠実な姿勢として評価されます。

リカバリの基本ステップ

当社「All in one 産業医」は、ベンチャー・スタートアップ100社以上の導入を支援してきた実績があり、面談実績は1,000件以上にのぼります。未選任状態からの緊急リカバリ、衛生委員会の立ち上げ支援、IPOを見据えた体制構築まで、月額50,000円〜(税抜)のミニマムプランから一気通貫でサポートできます。「いまさら相談していいのか」とためらう必要はありません。むしろ放置している期間が長いほど、早く動く価値があります。

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よくある質問

Q. 産業医を選任しないとどんな罰則がありますか?
A. 常時50人以上の事業場で産業医を選任しない場合、労働安全衛生法第13条違反として、同法第120条により50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。さらに第122条の両罰規定により、違反行為を行った担当者個人と法人の双方が罰せられる構造です。
Q. 罰金50万円さえ払えばよいのですか?
A. いいえ。罰金は入口に過ぎません。労基署の是正勧告・送検、従業員の健康被害が労災認定された際の安全配慮義務違反による民事賠償(過労死・過労自殺では数千万〜1億円規模の例も)、IPO・M&Aの労務DDでの重大指摘など、はるかに大きな二次的リスクがあります。
Q. すでに未選任のまま数か月経っています。どうすればよいですか?
A. まず今すぐ産業医を選任し、選任報告を労基署へ提出して現在を適法な状態にしてください。過去分の議事録や面談記録を遡って作成するのは厳禁です。同時に衛生管理者・衛生委員会・ストレスチェック・健診結果報告など他の未対応も棚卸しし、半年〜1年の運用実績を積むのが正攻法です。
Q. パートやアルバイトも「常時50人」に含まれますか?
A. 週1日以上または月8時間以上勤務する人は「常時使用する労働者」に含まれます。派遣社員は派遣先の事業場で指揮命令下にある人数として算入します。正社員だけで判断すると見落としが起きやすい点に注意が必要です。

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