嘱託産業医と専属産業医の定義の違い
嘱託産業医とは、月額固定の顧問契約で月数回の関与を行う産業医のことを指します。一方専属産業医とは、特定の事業場に常勤(フルタイム雇用)として従事する産業医です。労働安全衛生規則第13条で定められた区分で、企業規模・業務内容に応じてどちらを選ぶべきかが決まります。
| 項目 | 嘱託産業医 | 専属産業医 |
|---|---|---|
| 関与形態 | 月数回の訪問・面談 | 常勤(フルタイム) |
| 1社専属性 | 複数社を兼任可 | 1事業場に専属 |
| 契約形態 | 業務委託・顧問契約 | 雇用契約が一般的 |
| 主な対象企業 | 中小・ベンチャー | 大企業・有害業務事業場 |
| 費用感 | 月額3万〜15万円 | 年800万〜1,500万円 |
「嘱託」は雇用形態ではなく契約形態の名称
名称から「嘱託=非正規」と誤解されることがありますが、産業医における「嘱託」は業務委託契約に近い顧問契約を指す用語です。多くの嘱託産業医は他の医療機関での臨床活動を本業としつつ、副業として複数企業の産業医を兼任しています。
スポット契約との違い
スポット契約は「単発・必要なときのみ」依頼する契約形態で、嘱託契約とは別物です。嘱託は月額固定で継続的に関与するのが特徴で、企業文化や従業員の状態を継続的に把握できる点で優位です。
専属産業医が必須となる法定要件
労働安全衛生規則第13条第1項第3号により、以下の事業場では専属産業医の選任が義務化されています。
- 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
- 常時500人以上の労働者を使用し、かつ厚生労働省令で定める有害業務に従事する事業場(深夜業、坑内労働、高熱物体取扱、有害物取扱など)
「事業場」単位で判定されることに注意
法的義務は事業場(オフィス・工場など物理的な就労場所)単位で判定されます。全社合計で1,000人を超えていても、各事業場が500人以下であれば嘱託で対応可能なケースもあります。逆に、本社のみで1,000人を超える企業では、本社事業場に専属産業医を必ず置く必要があります。
50人以上1,000人未満は嘱託でOK
常時50人以上1,000人未満の事業場は、嘱託産業医での対応が認められています。つまりベンチャー・中小企業の99%以上は嘱託で十分です。専属を必要とするのは、製造業の大規模工場や、グローバル大企業の本社事業場など、限られた範囲です。
違反時の罰則
本来専属産業医が必要な事業場で嘱託のみを選任していた場合、選任義務違反として50万円以下の罰金が科される可能性があります。1,000人到達が見込まれる成長企業では、N-1期から専属候補者の確保に着手するのが現実的です。
費用比較|嘱託は月3〜15万円、専属は年800〜1,500万円
嘱託と専属では費用感が一桁以上違います。下表は2026年現在の一般的な相場です。
| 形態 | 費用目安 | 含まれる業務 |
|---|---|---|
| 嘱託(ライト) | 月3万〜6万円 | 月1回訪問、衛生委員会出席、健診結果チェック |
| 嘱託(標準) | 月6万〜10万円 | 上記+メンタル面談、ストレスチェック対応 |
| 嘱託(手厚) | 月10万〜15万円 | 上記+月2回以上訪問、Slack/chatwork相談 |
| 専属 | 年800万〜1,500万円 | 常勤、1事業場専属、フル業務カバー |
専属産業医のコスト構造
専属産業医はフルタイム雇用となるため、年俸(800万〜1,500万円)に加えて社会保険料・退職金引当・福利厚生・産業医室の設備費などのコストが乗ります。トータルでは年1,200万〜1,800万円規模の人件費を想定する必要があります。
嘱託に上乗せされる紹介料の問題
嘱託産業医を紹介会社経由で契約すると、月額の20〜30%が紹介料・仲介料として上乗せされているケースがあります。例えば「月8万円」の請求のうち、産業医本人への支払いは6万円程度、残りが紹介会社の手数料です。直接契約型のサービスを選ぶことで、この中間コストを削減できます。
業務範囲・関与度の違い
費用差は単純に時間数の違いだけでなく、関与度・対応スピード・業務範囲の差から生まれています。
嘱託産業医の業務範囲
- 月1回程度の事業場訪問・職場巡視
- 月1回の衛生委員会出席
- 健康診断結果の確認・就業判定
- 月80時間超の長時間労働者面談
- ストレスチェック後の高ストレス者面談
- 休復職判定面談(必要時)
「月数時間〜半日」の関与で、法的義務をすべてカバーできる構成です。
専属産業医の業務範囲
- 上記嘱託業務すべて
- 常駐による日常的な健康相談・対応
- 社内メンタルヘルス研修の企画・実施
- 健康経営施策の戦略立案
- 労務・人事との恒常的な連携
- 海外赴任者・出張者への産業保健対応
- 独自の健康施策の効果測定・改善
常駐により「事業場の健康課題に深く入り込む」ことが可能になり、戦略レベルの産業保健活動を担います。
関与度=コミュニケーション接点の数
嘱託は基本的に「予定された訪問日・面談日」での関わりが中心です。専属は廊下ですれ違う社員との立ち話、ランチでの相談など非公式な接点も生まれ、不調者の早期発見につながります。一方で嘱託でも、Slack/chatworkでの即時相談を提供するサービスを選べば、関与度のギャップは大幅に埋められます。
ベンチャー・中小企業は嘱託で十分なケースが大半
「専属の方が手厚そうだから」と希望する企業もありますが、ベンチャー・中小企業のほぼすべてが嘱託で十分です。理由は3つあります。
1. 法律上、必要ない
そもそも常時1,000人未満の事業場には専属産業医の義務がありません。50〜500人規模であれば嘱託契約で完全に法令対応できます。
2. コスト効率が圧倒的に良い
専属の年1,200万円は、嘱託(月10万円)の10年分に相当します。多くの中小企業ではこの予算を医療職に投じるよりも、人事・労務・福利厚生施策全体に回した方が、組織全体の健康度向上に効果的です。
3. 専門領域の選択肢が広がる
嘱託契約なら、メンタルヘルスに強い産業医、IPO対応に強い産業医、製造業に強い産業医など、自社課題に合致した専門性を持つ医師を選べます。専属の場合は「1人の医師が全領域をカバー」になるため、特定領域の深掘りが難しくなります。
嘱託で機能する3つの条件
嘱託で運営を成功させるには、以下の3条件を備えたサービスを選ぶことが重要です。
- Slack/chatwork等で日常的に連絡が取れる
- 緊急時の追加面談・即時対応が柔軟に可能
- 業界・規模特性にマッチした産業医がアサインされる
選び方の詳細は産業医の選び方|失敗しない8つのチェックポイントをご覧ください。
嘱託から専属へ切り替えるタイミング
急成長企業では、いずれ嘱託から専属への切り替えを検討する局面が来ます。タイミングの目安は3つです。
1. 1事業場の従業員数が800人を超えたとき
1,000人到達は突然訪れます。専属産業医の確保には3〜6ヶ月の採用リードタイムがかかるため、800人を超えた段階で候補者探しを始めるのが安全です。
2. 嘱託産業医の業務時間が週20時間を超えたとき
標準的な嘱託契約は月数時間〜半日が前提です。実務時間が週20時間を超えるようになると、専属化した方がコスト効率が良くなる場合があります。
3. メンタル不調者が継続的に増加しているとき
休復職対応・面談・職場改善など、専門性の高い対応に多くの時間が必要になった場合、専属の方が機動的です。ただし、Slack即時対応つきの嘱託サービスでも十分カバーできるケースが多いため、まずは嘱託の業務範囲拡張で対応するのが現実的です。
切り替え期の二重契約は避ける
専属採用の準備中も、現行の嘱託契約は維持しておく必要があります。専属が着任した時点で嘱託契約を終了するのが基本的な進め方ですが、引き継ぎを丁寧に行うために1〜2ヶ月の重複期間を設ける企業もあります。
嘱託料金プランの詳細は料金ページもあわせてご確認ください。